甲状腺良性腫瘍
腺腫様甲状腺腫
甲状腺腫瘍の大部分がこの腺腫様甲状腺腫で、良性のしこりです。甲状腺が結節性増殖により腫大する多発性病変のことを言います。
治療
小さいものは特に治療の必要性はありません。腫瘍が大きくなり、気管を圧排し狭くしていたり、目立つもの、縦隔(鎖骨より下の胸の中)に進展する場合は手術を考慮します。
濾胞腺腫(濾胞性腫瘍)
多くは良性腫瘍ですが、細胞診を行っても甲状腺の悪性腫瘍である濾胞がんとの区別がつきにくく、腫瘤のサイズ、細胞診の結果、血中サイログロブリン値、増大傾向などを参考にして、手術による摘出が必要かどうかを判断いたします。
甲状腺悪性腫瘍
甲状腺がんは、分化がん(乳頭がん、濾胞がん)、未分化がん、髄様がんと分類されます。特に甲状腺がんの9割以上の患者さんは、乳頭がんです。
乳頭がん
発育がゆっくりで、おとなしいがんです。しこり以外の症状がほとんどありませんが、大きくなってくると違和感、声のかすれ(嗄声)などの症状が現れることがあります。検診による頚部エコー検査で甲状腺のしこりを指摘され受診する機会が増えたがんです。穿刺吸引細胞診検査により診断は比較的容易です。比較的早い時期から甲状腺周囲のリンパ節に転移することが多いがんですが、予後は良好です。
治療
腫瘍の大きさが1cm以下で気管や神経などの重要組織から離れている場合は、低危険度微小乳頭がんとして手術をせず経過観察を行うことも推奨されています。それ以外の場合は、原則手術が推奨されます。また、病変の広がりにともない治療が追加されます。
濾胞がん
乳頭癌の次に多いがんで、甲状腺がんの中で5%を占めます。こちらもおとなしいがんであることがほとんどですが、中には肺や骨に転移するものもあります。
治療と診断
細胞の形状だけでは良性の濾胞腺腫と区別することができないため、診断には手術による切除が必要となります。
髄様がん
甲状腺がんの中の1-2%を占めるがんです。カルシトニンという血液中のカルシウムを下げるホルモンを産生する傍濾胞細胞(C細胞)から発生するがんです。遺伝子異常(RET遺伝子)を伴うものと、伴わないものがあり、遺伝子異常を伴う場合はご家族も髄様がんを発症することがあり、さらに褐色細胞腫や副甲状腺機能亢進症といった内分泌疾患を併発することがあります(多発性内分泌腫瘍症2型)。血液検査で腫瘍マーカーのCEAやカルシトニンが上昇することがあります。
治療
遺伝子異常の有無により方針は異なります。初期治療としては手術が推奨されます。
低分化がん
乳頭癌や濾胞癌のなかで、組織学的に細胞変性が強い低分化成分が含まれる癌は、低分化癌と呼ばれています。通常の乳頭癌や濾胞癌に比べ進行がやや早く、悪性度は少し高く、早期の適切な治療が必要となります。
未分化がん
未分化がんは非常に未熟な細胞から発生し、発育が急で悪性度の高いがんです。症状は、結節が急速に大きくなり、痛みや発赤が見受けられます。高齢者に多いがんです。
甲状腺悪性リンパ腫
リンパ腫は甲状腺が比較的急速に腫れます。なお分化がんと髄様がんは30~50代の女性、未分化がんやリンパ腫は60代以上女性の発症が多いです。
腫瘍の有無は、頸部超音波検査を行い、判断します。良性の腫瘍は、形状が楕円形など整っており、境界がはっきりしていますが、一方で悪性腫瘍の場合は、形状が整っておらず、また境界が不明瞭な充実性病変が現れるのが特徴です。このほかにも、甲状腺に針を刺し、採取した細胞を顕微鏡で調べ、良性か悪性かを判定する穿刺吸引細胞診、採血などによる検査などもあります。
治療について
検査結果などで悪性腫瘍と判定された際に、乳頭がんや濾胞がん、髄様がんであれば、外科的治療が行われます。その場合、甲状腺の摘出、頸部リンパ節への転移リスクの軽減のため、頸部リンパ節郭清術も併せて行います。
未分化がんは、増殖の速度が速いため外科的切除は困難と言えます。そのため、放射線治療(放射線外照射)や化学療法(分子標的薬)を行います。リンパ腫についても未分化がんと同様に放射線治療と化学療法の組み合わせながら行っていきます。